第11回:安全リレーモジュールとは

IDEC セーフティテック エキスパートチーム

安全リレーモジュールは、安全に関わる制御システムにおいて、「安全を確認できた場合だけ機械を運転する」という制御を実現するための機器です。具体的には、非常停止スイッチや安全スイッチといった「入力部」からの信号を受けて安全かどうかを判断し、その判断結果に基づいてコンタクタなどの「出力部」に信号を送ります。すなわち、安全リレーモジュールは安全関連システムにおいて「論理部」という中心的な役割を果たします【図1】。

図1:一般的な安全制御システムの構成と安全リレーモジュールの位置付け

一般的な安全リレーモジュールは、1つのケース内に複数の強制ガイド式リレー(第10回を参照)を内蔵しています【図2】。 さらに電子部品が実装された電子回路を備えており、制御盤に取り付けられる構造になっています。

安全制御システムにおける安全リレーモジュールの働き

初めに、安全制御システム全体の働きを説明します。ここでは例として、非常停止スイッチの操作に応じてコンタクタが負荷(モータ)回路を開閉するシステムを用います【図3】。 モータ運転時に非常停止スイッチが押されると、モータを直ちに停止させるというものです。

図3:非常停止スイッチの操作に応じてコンタクタが負荷回路を開閉する安全制御システム

非常停止スイッチはNC(ノーマル・クローズ)接点が使われており、通常は閉じていて(オンになっていて)安全状態を意味する信号(安全信号)を出力します。一方、何らかの異常が起きて非常停止スイッチが操作されると(押されると)、接点が開いて(オフになって)安全信号を出力しなくなります。


非常停止スイッチからの信号を受ける安全リレーモジュールでは、非常停止スイッチからの安全信号が入力されていて、さらに制御システムのスタート(起動)スイッチが押された場合に、モータの運転を許可する信号をコンタクタに出力します。そうしてコンタクタの接点が閉じ(オンになり)、電源から電力が供給されると、モータが運転を始めます。ちなみに、コンタクタの接点はNO(ノーマル・オープン)であり、安全リレーモジュールからの信号がない状態では開いています。


こうした安全制御システムにおいて、モータの運転中に非常停止スイッチが押されると、安全信号が安全リレーモジュールに入力されなくなり、安全リレーモジュールはコンタクタへの信号(モータの運転を許可する信号)の出力を停止します。これを受けて、コンタクタのNO接点も開く(オフになる)ので、モータは停止します。


さらに、非常停止スイッチが押されている状態では、仮にスタートスイッチが押されたとしても安全リレーモジュールはコンタクタに信号(モータの運転を許可する信号)を出力しないようになっているので、モータは動きません。モータを再スタートさせるには、非常停止スイッチをリセット(操作された状態の解除)した上でスタートスイッチを押す必要があります。

故障検出機能

安全リレーモジュールによって実現できる重要な機能として、故障検出が挙げられます。安全制御システム内部で故障が発生した場合に、そのことを検出した上で機械を安全に停止させる機能です。ここでは、前出の非常停止スイッチやコンタクタなどから成る安全制御システムを例に、安全リレーモジュールを用いた場合と、一般的なリレーを用いた場合を比較することで、安全リレーモジュールの故障検出機能を説明します。

【図4】 に安全制御システムの例として、モータの運転開始/非常停止システムを示しました。非常に複雑な図なので、ここでは要点に絞って説明します。

[A]運転開始時

[A]は、スタートスイッチSを押してモータを停止した状態から運転を開始するまでの状態を時系列に並べたものです。点線で囲った部分が安全リレーモジュールの主要部分です。以下、状態1〜4を順に説明していきます。

状態1: 操作前(モータは停止)
状態2: スタートスイッチSを押すと、リレーR3のコイルが励磁し、R3のNO接点がオンになるので、リレーR1と同R2のコイルが励磁する
状態3: R1とR2のNO接点がいずれもオンになって、モータMが運転を開始するとともに、R1とR2のNC接点がオフになるので、R3のコイルの励磁が解除される
状態4: Sから手が離れても、自己保持回路が機能し、Mは運転を続ける
[B]非常停止時(非常停止スイッチ操作時)

[B]は、非常事態が発生して非常停止スイッチEを押したときの状態です。安全リレーモジュールの故障検出機能を説明するために、ここではリレーR1のNO接点が溶着した(常時オンになった)と仮定しています。
非常停止スイッチEを押すと、リレーが正常に動作する場合は、リレーR1とR2の励磁が解除され、これらのNO接点はオフになり、モータは停止します。R1のNO接点が溶着している場合、この接点はオンのままですが、R2のNO接点はオフになるので、やはりモータは停止します。
[C]再起動時

[C]は、非常停止スイッチEをリセット状態、つまり[B]の状態から、再度スタートスイッチSを押してモータを再スタートさせようとしている状態です。ここでも、リレーR1のNO接点が溶着していたと仮定します。安全リレーモジュールの故障検出機能は、ここで真価を発揮します。

この状態では、Sを押してもR1のNC接点はオンにならない(R1のNO接点が溶着している)ので、リレーR3のコイルは励磁しません。そのため、R1とR2のコイルも励磁されず、モータの運転を開始できません。R1ではなくR2のNO接点が溶着した場合も同様です。これが、安全リレーモジュールの故障検出機能となります。強制ガイド式リレーだからこそ、このような機能を実現できています。

<一般的なリレーを1個用いた場合>

【図5】 は、モータの運転開始/非常停止システムにおいて、論理部に安全リレーモジュールではなく一般的なリレーを1個用いた例です。これは、モータを制御する回路として広く使われています。

この回路におけるリレーRは連動する2つのNO接点を備えており、そのうち1つは自己保持回路に、もう1つはモータ回路に接続されています。

自己保持回路は、【図5】 の例では、スタートスイッチSを押して接点をオンにしてリレーRのコイルを励磁させた後、Sから手を離しても接点がオンの状態を保つための回路です。SとNO接点が並列に接続されているので、NO接点がオンになった後にスイッチから手を離しても、コイルに電流が流れ続け、NO接点はオンの状態を維持します。
以下、動作を説明していきます。

[A]運転開始時

状態1: 操作前
状態2: スタートスイッチSを押す
状態3: リレーRが励磁し、2つのNO接点が共にオンになり、モータMの運転が始まる
状態4: Sから手が離れても、自己保持回路が機能し、Mは運転を続け
[B]非常停止時(非常停止スイッチ操作時)

[B-1]は、システムが正常な場合です。非常停止スイッチEを押すと、コイルの励磁が解除され、NO接点がオフになり、モータMは停止します。
[B-2]は、システムが異常な場合、具体的にはリレーRのNO接点が溶着した場合です。その場合、非常停止スイッチEを押してもモータMは停止しません。コイルの励磁は解除されますが、NO接点が溶着してオンのままだからです。

この例では、リレーが溶着するという故障が発生した場合、故障したことを検出する以前に、非常停止スイッチが機能しません。

<一般的なリレーを2個用いた場合>

【図5】 に示した安全制御システムの改善案として、リレーを2個に増やした例が【図6】 です。リレーR1およびR2の接点が直列に、コイルが並列に接続されています。以下、同様に動作を説明します。

[A]運転開始時

モータの運転を開始するときの動作は、基本的には【図5】 の回路と同じです
[B]非常停止時(非常停止スイッチ操作時)

このシステムが正常な場合、非常停止スイッチEを押すと、リレーR1とR2のNO接点がいずれもオフとなり、モータMは停止します。問題は、これらのリレーが溶着した場合です。

[B-1]は、リレーR1のNO接点が溶着した場合を示しています。この場合、非常停止スイッチEを押すと、R1のNO接点は溶着しているのでオンのままですが、リレーR2のNO接点がオフになり、モータMを停止できます。しかし、その後でスタートスイッチSを押すとR2のNO接点が再びオンになり、モータを運転できてしまいます。R1の故障(溶着)に気付けない、つまり故障検出機能がないということになります。

[B-2]は、リレーR1だけではなくリレーR2のNO接点も溶着した場合を示しています。この場合は、非常停止スイッチEを押しても、R1とR2のNO接点がオンのままなので、モータを停止できません。

すなわち、一般的なリレーを1個から2個に増やした場合、システムの二重化という意味では多少の効果が見込めますが、どちらかのリレーが故障した場合にそれを検出する機能がなく、その間にもう一方のリレーも故障してしまうと非常に危険な事態を招きます。故障検出機能を持つ安全リレーモジュールを使う理由がこれでお分かりいただけたと思います。

安全リレーモジュールの発展形

これまで紹介した安全リレーモジュールは、基本的に入出力が1系統のものでした。しかし、近年は制御対象のシステムが複雑になっているため、複数の入出力系統に対応できる安全コントローラを用いるケースが増えています【図7】。 安全コントローラよりも多くの入出力系統に対応可能なものとしては、安全PLC(Programmable Logic Controller)があります。