第2回:非常停止スイッチとは何か

IDEC セーフティテック エキスパートチーム

工場などで使用される機械設備には、オペレーターの安全を確保するために、機械設備を緊急に停止させるための「非常停止システム」が組み込まれています【図1】。そのシステムの入力部として設置されているのが非常停止スイッチです。オペレーターが危険を感じたり機械設備に異常が発生したりした場合、手動で操作するスイッチです【図2】。

図1:非常停止システムの例

非常停止スイッチは危険な状態において使用されることが多く、スイッチが正常に機能しなければ事故や災害に直結する可能性があります。そのため、通常の停止スイッチよりも高い操作性と確実性が求められる他、構造や使い方について国際的に定められた安全規格(IEC、ISO規格)の要求を満たす必要があります。

非常停止スイッチの種類

非常停止スイッチの種類としては、主に以下のものが挙げられます。)

●押ボタン式非常停止スイッチ

操作パネルまたは操作ボックスの表面に取り付けられた赤色のキノコ型ボタンを手で押して機械を停止させるタイプです【図3】。いったん押し下げられたボタンはそのままの位置で保持されます。ボタンの位置を元に戻す(リセット)方法としては、ボタンを指定された方向に回すタイプと、元の位置に引っ張るタイプがあります【図4】。

●足踏み式の非常停止スイッチ

上記の押ボタン式非常停止スイッチのボタンを、足で押し下げるタイプです。

図5:ロープ式非常停止スイッチ

●ロープ式非常停止スイッチ

ラインに沿ってロープを設置し、そのロープを引っ張ることにより機械設備を停止させるタイプです。複数の機械設備などから成る長い製造ラインで使用されます。このタイプでは、ロープには適切な張りが必要です。ロープが切れたり緩んだりした場合にも非常停止スイッチが作動し、機械が停止します【図5】。

非常停止スイッチの構造

●押ボタン色と形状

機械設備の操作パネルには、たくさんの操作用押ボタンやインジケータが並んでいます。その中でも非常停止スイッチは、緊急時にそれと分かる必要があります。従って、操作ボタンは大きな赤色で、かつ手のひらで押しやすいキノコのような形をしています。さらに、スイッチの周辺には黄色を配色することで一層目立つようにすることが要求されています【図6】。

●NC(ノーマルクローズ)タイプの出力接点

スイッチの接点は、ノーマルオープン(NO)タイプとノーマルクローズ(NC)タイプがあります【図7】。非常停止スイッチでは、必ずNCタイプの接点(NC接点)を使用することが求められています。その理由を以下で説明します。

NOタイプの接点(NO接点)を使う場合、ボタンを押していない(非常事態ではない)ときは接点が開いているのでスイッチが組み込まれた回路に電流は流れませんが、ボタンを押すと接点が閉じて非常事態を知らせる電流が回路に流れます。ところが、接点に異物が付いていたり配線が切断していたりすると回路に電流が流れないので機械設備を緊急停止させられません。
これを危険側故障といいます。

一方、NC接点ではボタンを押していないときに接点が閉じます。この特徴を利用することで、安全状態であることを意味する電流を回路に流せます。ボタンを押して接点を開くと、電流が遮断され、機械設備を停止させます。つまり、非常停止スイッチによる非常停止信号は、それまで流れていた(安全状態であることを意味する)電流を遮断することによって非常停止出力としているわけです。

接点に異物が付いていたり配線が切断していたりする場合でも非常事態と判断されるので、やはり機械設備を停止させます。これを安全側故障といいます。このように安全にかかわる制御システムや部品は、自身が故障した場合に機械を安全に停止させる形で故障することが要求されます。

<直接開路動作機能(強制開離機能)>
直接開路動作機能とは、ボタンを押したときの操作力が直接NC接点に作用して接点を強制的に開き、電流を遮断する構造です。たとえ接点が溶着※している場合でも、接点を確実に開けます。押しボタンから接点までは全て剛体部品で構成する必要があり、途中にばねなどの弾性体部品は使えません。ただし、接点を元の位置に復帰させるためのばねはこの構造に含まれません【図7】。

※溶着 接点容量を超える電流が流れることによって互いの接点が溶けて、接点が離れにくくなる現象。

<ラッチング機構(自己保持機構)>
非常停止スイッチのボタンを押すと、電流を遮断すると同時にラッチング機構が働いてボタンを押し下げた位置のままで保持します。これによって電流遮断状態を維持できるので、機械設備の意図せぬ動きを防止すると共に、非常停止スイッチが複数使用される場合、どのスイッチが押されたかを特定出来るようになっています。

使用する上での注意事項

非常停止スイッチを使用する場合、下記の事項に注意する必要があります。
● とっさの場合に操作できるようにオペレーターが作業する位置の近くに配置する。
● 押ボタン式非常停止スイッチの周囲に操作の妨げとなるガードを設置しない。
● 押ボタン式非常停止スイッチをくぼんだ場所に設置しない。
● ロープ式非常停止スイッチは、ロープの重さなどを考慮して張り具合を定期的に調節する
(ロープは、季節により伸び縮みすることがある)。

現在の最新技術、今後の技術動向

最近では、予見可能な誤使用に対しての安全性を高めるために、過度な操作による部品の破損や誤った設置による接点ユニットの脱落などが起きても、電流を遮断する技術の開発が進んでおり、既に実用化されているものもあります。これら最新の技術については、この連載の中で紹介していく予定です。

現在、非常停止スイッチからの信号は有線で伝えています。しかし、今後は無人搬送車や移動ロボットなどを離れた場所から非常停止させたり、可搬式の操作ボックスで機械を操作したりするニーズが増えてくると、信号を無線で伝えて機械設備を安全に停止させる必要があります。そのための技術開発も始まっています。