第10回:強制ガイド式リレーとは

IDEC セーフティテック エキスパートチーム

前回までは、さまざまな安全機器のうち、現場の状態を検知する「入力機器」について説明してきました。今回からは、入力機器の信号を受けて適切な制御を行う「論理機器」を紹介していきます。
今回取り上げるのは「強制ガイド式リレー」です【図1】。

図1: 強制ガイド式リレー(左)と汎用リレー(右)

そもそもリレーとは、電磁石(コイル)の電磁力を利用してスイッチのオン/オフを切り替える機器です(*1)。電磁石からスイッチに電気信号を伝えるので、「継電器」とも呼ばれます。

*1: 電磁石は比較的小さい電力で駆動するため、大電流の切り替えにスイッチを用いた場合、リレーは「増幅器」の役割も果たします。


リレーにはさまざまな種類がありますが、本稿の主役である強制ガイド式リレーは機械の安全に関わる制御システムに使用されています。強制ガイド式リレーは、スイッチの切り替えというリレー本来の役割に加えて、自身の接点が溶着するなどの故障が発生した場合にそれを検知して機械を安全に停止させるという監視の役割も担います。
以下では、汎用リレーとの比較に基づいて強制ガイド式リレーについて説明していきます。

強制ガイド式リレーの構造と動作

表1に、強制ガイド式リレーの構造と動作を示しました。
強制ガイド式リレーは、NO接点(Normal Open、常時開)接点およびNC(Normal Close、常時閉)接点という2種類の接点を持ちます。NO接点とNC接点は壁で仕切られていて、互いに絶縁されていますが、リンク機構(ガイド)によって機械的につながっており、電磁石への電圧の有無に応じてNO接点とNC接点が連動する仕組みです。具体的には、電磁石に電圧を印加していない状態では、NO接点はオフ、NC接点はオンです。電磁石に電圧を印加すると、NO接点はオン、NC接点はオフになります。

例えば、機械の稼働/停止を司る制御システムに強制ガイド式リレーを用いる場合、NO接点は動力制御用回路に、NC接点は監視用回路に接続します。そうしておけば、NO接点がオンのとき、すなわち電磁石に電圧を印加した状態(エネルギを投入した状態)のみ機械が稼働し、エネルギを遮断すれば機械が停止するので、安全を確保しやすくなります。だからこそ、動力制御用回路にはNO接点を用いるのです。


一方、NC接点は、電磁石に電圧を印加していない状態(機械が停止している状態)ではオンになります。すなわち、安全な状態では電流を流し、危険な状態(機械が稼働している状態)では電流を流さないので、安全状態を検出するための監視用回路に適しています。


このように、強制ガイド式リレーでは、1組のNO接点とNC接点に動力制御用回路および監視用回路の制御という2つの機能を持たせられます。ガイドによってNO接点とNC接点が連動する構造なので、リレーの状態を正確に監視できるわけです。


ちなみに、【表1】ではNO接点とNC接点の数がそれぞれ1個だけに見えますが、実際には機械の駆動源などとして用いられるモータの3相交流回路を制御するために、3組のNO接点とNC接点を備える製品が一般的です。

以上の説明をふまえて、【表1】の状態1〜3について順に説明していきます。

状態1(電磁石に電圧を印加していない状態)

電磁石に電圧を印加していない状態では、NO接点はオフとなり、機械は停止しています。一方、NC接点はオンとなり、機械が停止しているという信号(情報)をコントローラなど他の機器に伝えます。
状態2(電磁石に電圧を印加している状態)

電磁石に電圧を印加し、NO接点がオンになりました。これに伴いNC接点はオフとなるので、機械が稼働しているという信号(情報)を伝えます(*2)。
 *2:正確には、機械が停止しているという信号(情報)が遮断されることによって、機械が稼働していると判断しています。
状態3(NO接点が溶着している場合に、電磁石への電圧の印加をやめた状態)

電磁石への電圧の印可をやめるとNO接点はオフになるはずですが、溶着しているのでオンのままです。すると、ガイドによってNO接点と連動しているNC接点はオフの状態を維持しています。NO接点はオンのままなのでオペレーターの意図に反して機械は稼働し続けていますが、NC接点もオフのままなので監視用回路はその状態をきちんと認識できています。もし機械が稼働し続けているにもかかわらず、NC接点とつながっている監視用回路が「機械が停止した」と誤認識すると、思わぬ災害を招く危険性がありますが、強制ガイド式リレーなら少なくともそうした心配はありません。

電磁石への電圧の印可をやめたのにNC接点はオフなので(本来はオンになるはず)、他の正常な系統と照合することなどによって、リレーに異常が発生していると分かります。強制ガイド式リレーは、溶着した接点をはがせるわけではありませんが、溶着の発生を検知できるという特徴を備えています。


このように、安全に関わる制御システムでは、過電流などでリレーの接点が溶着して離れなくなる危険性を考慮し、監視する必要があります。そうした監視の仕組みを設けないと、実際は機械が稼働しているにもかかわらず誤って停止しているという情報がオペレーターに示される恐れがあり、非常に危険です。

汎用リレーの構造と動作

次に、強制ガイド式リレーとの比較のために、汎用リレーについて説明していきます。
本来、汎用リレーは一般の制御システムに用いるものであって、安全に関わる制御システムに適用できる機器ではありませんが、あくまで比較のために「もし汎用リレーを用いて安全に関わる制御システムを構成するとしたら」という前提での説明とお考えください。


【図2】に、電磁石とスイッチが1つのケースに収められた汎用リレーの構造を示します。


汎用リレーでは、NO接点とNC接点が一体となっていて、電磁石に電圧を印加していない状態ではNC接点がオン(NO接点がオフ)、電圧を印加した状態ではNO接点がオン(NC接点がオフ)になります。このように、電磁石への電圧の有無によって接触する接点が切り替わるスイッチ接点を「C接点」といいます。


動作原理は、以下の通りです。電磁石に電圧を印加していない状態では、電磁石と鉄片は離れており、電流はC端子からNC端子に流れます。電圧を印加した状態では、鉄片が電磁石に引き寄せられ、電流はC端子からNO端子に流れるようになります。電圧の印加をやめると、ばね(復帰ばね)の力で鉄片が再び電磁石から離れます。

汎用リレーは、NO端子とNC端子がC端子を共有する構造となっています。
一般に、動力制御用回路と監視用回路は電圧が異なる別々の回路とする場合が多く、1個のC接点に動力制御用回路および監視用回路の制御という2つの役割を持たせることは実際にはほとんどありません。従って、少なくとも2個以上のC接点を用いて、動力制御用回路を制御する系統(以下、系統Aとする)と監視用回路を制御する系統(系統B)を用意する必要があります。具体的には、系統AのNO接点を動力制御用回路と接続、系統BのNC接点を監視用回路と接続します。その上で、強制ガイド式リレーと同じ状態1〜3において汎用リレーがどう動作するのかを【表2】に示しました。


状態1と2では、接点の配置など構造に多少の違いはあるものの、汎用リレーのNO接点やNC接点は強制ガイド式リレーと同様に動作します。ところが、状態3の動作は異なります。汎用リレーにおいて、系統AのNO接点が溶着した状態で電磁石への電圧の印加をやめても、NO接点はオンのままなので、機械は稼働し続けます。一方、系統Bは電磁石への電圧の印加をやめたことで、NC接点がオフからオンになり、「機械は稼働していない(停止した)」と認識してしまいます。この場合、オペレーターが危険な状況に陥る恐れがあります。従って、安全に関わる制御システムに汎用リレーは適しておらず、強制ガイド式リレーを用いなければならないことがお分かりいただけると思います。

その他の安全上の比較

リレーの安全性を考える上では、板ばねの破損も重要な点の1つです。強制ガイド式リレーと汎用リレーについて、板ばねが折れた場合の動作をそれぞれ【図3】と【図4】に示しました。


強制ガイド式リレーでは、NO接点とNC接点は壁によって仕切られているので、どちらかの接点の板ばねが折れてももう一方の接点に影響を及ぼすことはなく、影響を最小限に抑えられます。しかし、汎用リレーはNO接点とNC接点が一体となったC接点なので、ばねが折れると両方の接点に導通したり、隣の系統に影響を及ばしたりする恐れが高く、安全上の問題があります。