第6回:非接触安全スイッチとは

IDEC セーフティテック エキスパートチーム

これまで紹介してきた安全スイッチは、扉の固定部に付けた本体と可動部に付けたアクチュエータがメカニカルにかみ合う構造の開閉検出装置でした。今回紹介するのは、アクチュエータと本体が直接接触することなく、近づいたり離れたりするだけで本体内のセンサがドアの開閉を検出するタイプで、一般に「非接触安全スイッチ」と呼ばれています。
非接触安全スイッチは、構造物同士が物理的に接触しないので摩耗粉が生じないという利点があります。さらに、開口部がなく凹凸も少ない形状にできるので、水や塵埃(じんあい)の影響を受けにくいことも特長です。

非接触安全スイッチの種類

非接触安全スイッチは、開閉の検出に用いるセンシング技術によって主に2種類に区分されます。

図1:リードスイッチタイプの非接触安全スイッチ

[1]リードスイッチタイプ

概観を図1に示します。アクチュエータ側に磁石、本体側にリードスイッチを複数内蔵する構造です。現在、広く普及しています。

図2:RFIDタイプの非接触安全スイッチ

[2]RFIDタイプ

概観を図2に示します。アクチュエータ側にRFID(ICタグ)、本体側にRFIDリーダを搭載しています。

いずれのタイプでも、信頼性はもちろんのこと、以下の機能が求められます。

■無効化防止機能
■故障した場合に安全を維持する(すなわち出力を停止する)ための故障検知機能

本稿では、これらの機能について重点的に説明します。

リードスイッチタイプの非接触安全スイッチ

図3:リードスイッチタイプの構造概略

<構造と動作の原理>
リードスイッチタイプの非接触安全スイッチの構造を図3に示します。磁石とリードスイッチの複数のペアが適度な間隔で配置されています。扉が閉まると磁界が強くなり、リードスイッチの接点が動作します。扉が開くと磁界が弱くなり、リードスイッチの接点は元の状態に戻ります。

<無効化防止機能>
磁石とリードスイッチのペアが1組だけの場合、アクチュエータではなく市販の磁石を近づけただけでリードスイッチの接点が動作してしまいます。そこで、少なくとも2組のペアを使い、全てのペアが動作したことをもって「正常である」と判断すれば、市販の磁石などによる無効化を防げます。その際、リードスイッチにはNO(ノーマルオープン、通常は開)接点とNC(ノーマルクローズ、通常は閉)接点の両方を用いることで、全てのスイッチが故障する事態を極力防ぐようにします。

以上の対策で無効化を防いだとしても、交換用アクチュエータなどを用いた無効化の可能性は依然として残っています。そのため、そうした備品の管理などを含めた安全管理体制が不可欠です。

<故障検出機能>
一般にリードスイッチタイプの非接触安全スイッチは、安全リレーモジュールと呼ばれるコントローラと組み合わせて使用します。その主な理由は、リードスイッチの接点が直接開路動作型*ではないので、溶着(故障)する恐れがあることです。故障を検出するためには、コントローラがセンサから2回路分の信号を受け取った上で照合し、正常ではない情報の組み合わせを受け取った場合には出力を停止するようなモニタリング機能が必要となります。その考え方の概略を図4に示します。この図では、2つある回路のうち1つ(リードスイッチB)が溶着した場合を想定しています。

*直接開路動作型 スイッチ本体とアクチュエータがメカニカルにかみ合うタイプのスイッチにおいて、アクチュエータを抜いた(ボタンを押した)ときの操作力が直接NC接点に作用して接点を強制的に開き、電流を遮断する構造のもの。

図3:非接触スイッチを小窓に取り付けた例

<特長と用途>
前述の通り、非接触安全スイッチは摩耗粉が生じません。そのため、清浄な製造環境が要求される半導体やその応用製品を製造するクリーンルーム内設備のインターロック用途に向いています。

さらに、表面に凹凸が少ない構造とすることでスイッチ本体やアクチュエータに異物が付着・堆積しにくくなるので、装置の丸洗いが不可欠な食品製造装置のインターロックにも使用されます。一般に、非接触安全スイッチはメカ式安全スイッチよりもかなり小さいこともあり、図5に示すように回転半径の小さい窓にも配置しやすくなります。かみ合わせを考慮する必要がないので、取り付け精度についても安全スイッチに比べて余裕を持たせられます。

<使用上の注意点>

アクチュエータに磁石を使用しているので、近くに他の磁石や強磁性体(鋼板)などがある場合は、それらの影響を受けない距離に設置しなければなりません。また、本体にセンサを取り付けるねじについても、強磁性体の素材は避ける必要があります。周囲に鉄粉など強磁性体の金属粉が存在する環境では、非接触安全スイッチを使用することはできません。

さらに、非接触安全スイッチはその構造上、スイッチ自体にロック機構がありません。扉をロックする必要がある場合、シリンダなどロック機構を別途設けます。

RFIDタイプの非接触安全スイッチ

RFIDタイプの非接触安全スイッチは、リードスイッチタイプよりも強力な無効化防止機能や故障検出機能を実現できます。そのため、近年はRFIDタイプの採用が少しずつ増えています。

図6:RFIDタイプの構造概略

<構造と動作の原理>

RFIDタイプの非接触安全スイッチの構造を図6に示します。アクチュエータがスイッチ本体に近づくと、センサヘッド側のRFIDリーダがアクチュエータ側のRFIDからIDデータを読み取ります。それをあらかじめ本体側に記憶してあるIDと照合し、一致していればコントローラが出力を許可するという仕組みです。

図7:ユニコード式による無効化防止

<無効化防止機能>

RFIDタイプの無効化防止機能は、ユニコード式とマルチコード式の2種類があります。

■ユニコード式
RFIDリーダが特定のRFIDを読み取った場合のみ、出力を許可する方式です(図7)。別のRFIDを搭載したアクチュエータを近づけても出力を許可しないので、非常に高いレベルの無効化対策を実現できます。これは、RFIDタイプの特長を最大限に生かした方式といえます。

■マルチコード式
同じタイプのアクチュエータであれば異なる個体でも出力を許可する方式です。この方式でも無効化防止という点では、リードスイッチタイプよりも高いレベルを実現できます。ただし、リードスイッチタイプと同様に交換用アクチュエータなど備品の管理が必要になります。

<故障検出機能>

ユニコード式もマルチコード式も、内蔵ICとソフトウエアによってセンサ自体の故障検出が可能です。従って、故障診断用の外部コントローラは要りません。

まとめ

リードスイッチタイプとRFIDタイプについて、無効化防止機能と故障検出機能を比較したのが表になります。

リードスイッチタイプとRFIDタイプの比較

現在は手軽に使用できることからリードスイッチタイプが広く使われていますが、今後はRFIDタイプも無効化防止能力や故障検出能力の高さを生かして普及していくと思われます。