第8回:セーフティ・ライトカーテンとは

IDEC セーフティテック エキスパートチーム

本連載でこれまで紹介してきた安全スイッチや非接触安全スイッチは、安全柵や工作機械などの扉の開閉検出を行うものでした。今回紹介するセーフティ・ライトカーテン(以下、ライトカーテン)は、扉のない出入り口における人や物の通過を光線によって検出する安全装置です(図1)。

図1:代表的なライトカーテン(左)とその設置例(右)

動作と基本原理

ライトカーテンは、投光側ユニットと受光側ユニットを組み合わせて使用します。投光側ユニットから放たれる複数の平行な光線が、受光側ユニットで正確に受光されるようにこれらのユニットを設置します(図2)。両者の間に遮る物体がない場合は、全ての光線が受光側ユニットに届くので、そのことをもって安全な状態であると見なし、受光側の出力をオンにして機械の運転を許可します。一方、人の手や体などによって光線の一部または全てが遮られたら、危険な状態であると判断し、受光側の出力をオフにして機械を停止します。

ライトカーテンの光源は、波長が400n〜1500nmの範囲とすることが定められています。一般に、エネルギ効率が高くて遠くまで届くことから、波長が900nm程度の赤外線を出力するLEDを使用します。従って、ライトカーテンの光線は、目に見えません(可視光の波長は380n〜780nmの範囲とされています)。

加えて、各軸の光線は時間をずらして1本ずつ順番に放射されており、その順番通りに受光している場合のみ受光側ユニットの出力はオンになります。従って、受光側ユニットに強力な外乱光が入ったり、遮光する物体があったり、光軸がズレていたりして受光する順番が乱れた場合も受光側ユニットの出力はオフとなります。つまり、両ユニット間を人や物体が通過したときだけではなく、システムに何らかの異常が発生したときも機械を安全に停止するように機能します。

ライトカーテンの使用例

ライトカーテンの具体的な使用例を紹介します。図3は、プレス機に設置した例です。プレス機のようなサイクルタイムの短いプレス機械でワーク(被加工物)の投入/搬出を行う場合に、指などを検知するためにライトカーテンを使用しています。一方、図4は産業用ロボットに設置した例です。産業用ロボットの周囲をライトカーテンで囲むことによって、安全柵の代わりとすることも可能です。ライトカーテンを用いた場合、人や物体の動きを物理的に妨げるものがないので、大きなワークを効率良くセットできるようになります。

  • 図3:プレス機に設置した例
  • 図4:産業用ロボットに設置した例

先に、ライトカーテンでは一部の光線が遮光されたら受光側システムの出力をオフにすると述べましたが、遮光されている光線が一定数以下であれば出力をオンのままで維持するような設定も可能です。それを「ブランキング機能」と呼びます。同機能を用いると、以下のような便利な使い方を実現できます。

図5:フィックス・ブランキング機能を用いた例

例えば、図5のシステムではコンベヤを用いて薄いシート部材を機械に搬入しており、その入り口にライトカーテンを設置しています。この場合、コンベヤがある空間の光線は常時遮られることになるので、それでも受光側ユニットの出力がオフにならないように設定しています。こうした機能を「フィックス・ブランキング機能」と呼びます。コンベヤの位置を変更する場合は、再度設定を行う必要があります。

図6:フローティング・ブランキング機能を用いた例

遮光される光線の数に基づいた制御も可能です。図6のシステムでは、機械から出てくるフープ材を機械の外で巻き取り、その出口にライトカーテンを設置しています。フープ材がたわむと遮光される光線が変わりますが、遮光される光線の数自体は変わらないので、受光側ユニットの出力はオンのままです。もちろん、何らかの異常によって設定値よりも多くの光線が遮光されるような事態になれば、出力は即座にオフとなります。こうした機能を「フローティング・ブランキング機能」と呼びます。

安全距離の確保と設置

ライトカーテンには、人や物体の進入を遮蔽する柵や扉がないので、実際に人や物体が光線を遮ってからそれを検知して機械(の可動部)を停止するまでの時間に基づいて、人や物体が危険源に接触しないようにするための距離(安全距離)を確保する必要があります。この安全距離によってライトカーテンの設置場所を決めます。

それにはまず、遮光する物の大きさに応じて適切な光軸ピッチのライトカーテンを用いなければなりません。具体的には、図3のように指を検知するシステムでは、最小検出物体が直径14mmという光軸ピッチが狭いタイプを使用します。図5のように手を検出するシステムでは同25mm、腕を検出するシステムでは同45mmのタイプが適しています。一方、図2のように人体そのものを検知するシステムでは、光軸ピッチがもっと粗い(大きい)タイプでも構いません。

その上で、決められた計算式によって安全距離を算出します(図7)。計算式中の2000や1600といった数字は、1秒間に人が歩く距離(単位はmm)の想定です。

安全距離だけではなく、設置場所の高さについても確認しておく必要があります。ライトカーテンの下をくぐれるようでは意味がないので、そうしたことも考慮して設置しなければなりません(図8)。ライトカーテンの長さは、300mm程度のものから2000mm近いものまでさまざまな大きさがそろっていますので、用途に応じて適切なものを選んでください。

図8:誤った設置例と正しい設置例

使用上の留意事項

前述の通り、ライトカーテンは扉を使わずに安全を実現する装置なので、それに伴う留意事項があります。加えて、光学系の電子機器という面での留意事項も存在します。具体的には、以下のような留意事項が挙げられます。

■機械から出てくる切粉/切削油/放射線/騒音などは遮蔽できないので、そうしたものを遮蔽しなければならない場合は、扉とインターロック装置(安全スイッチ)の組み合わせにより安全を確保します。
■蒸気やホコリなどの多いところでは、光線が妨げられたり、投光/受光のレンズが汚れたりするので、使用を避けた方がいいでしょう。
■太陽光やストロボ光などのライトカーテンにとっての外乱光は、受光側ユニットの受光面に直接当たらないようにします。
■反射性の壁面などが近くにあると、人や物体によって光線を遮蔽されていても受光側ユニットがその反射光を受光してしまう恐れがあります。

ミューティング機能

ライトカーテンの大きな特徴としてミューティング機能があります。これは、ワークを自動で危険区域に搬入するようなシステムにおいて、ワークはライトカーテンをそのまま通過させ、間違って進入しようとする人などだけを検出するための機能です。ワークが通過するたびにライトカーテンが動作すると困るので、こうした機能が設けられています

ミューティング機能を採用したシステムを図9に示しました。ライトカーテン本体に加えて、少なくとも2組のミューティング・センサを使用します。その仕組みは以下の通りです。

[1]ワークが2組のミューティング・センサの光線を両方とも遮光すると、ライトカーテンにおいてワークの高さにある光線を受光できなくても受光側ユニットの出力はオンのままとします(ワークのA-B点がコンベヤ上のA´-B´点まで到達するとミューティング・センサの光線が両方とも遮光されます)。
[2]ワークが通過している間は、ミューティング状態であることを周辺に警告するために、備え付けのランプを(ミューティング用ランプ)を点灯させます。
[3]ワークが2組のミューティング・センサの光線上を完全に通過し終えると、ミューティング状態が解除され、ライトカーテンは元の状態に戻ります(ミューティング機能を解除するには、ワークのC-D点がコンベヤ上のC´-D´点を同時に通過する必要があります)。

人がコンベヤ上を通過しようとしても、胴体や足首は2組のミューティング・センサの光線を両方とも遮蔽できない上、ワークよりも高い位置で照射されているライトカーテンの光線が遮蔽されるので、ライトカーテンの受光側ユニットの出力は即座にオフとなり、機械は安全に停止します。このことから、2組のミューティング・センサの光線が交わるポイント(クロスポイント)は危険区域内に設定しなければならないことが分かります。

これまで説明してきたように、ライトカーテンは人や物体が通過したことを検知できます。しかし、人や物体が中に入ったのか外に出たのかということまでは分かりません。次回は、主に危険領域内において人の存在を検知するための安全機器を紹介します。