危険性または有害性などの調査に関する指針
この指針は、労働安全衛生法 第28条の2により、事業者が使用する機械設備に対するリスクアセスメント(リスク低減方策を含む)の要求を、具体的に示した指針です。概ね、以下のような内容を規定しています。
1.危険性または有害性などの調査(または、リスクアセスメント)とは何か
危険性または有害性などの調査とは、労働者の就業に係る危険性、または有害性(ハザードまたは危険源)を災害が発生する前に見つけ出し、組織的に対策を検討する一連の流れです。事業者はリスクアセスメントの結果に基づいて、リスク低減方策を実施しなければなりません。
2.実施体制
リスクアセスメントおよびリスク低減処置は、安全(衛生)委員会の活動と共に、経営者のみならず労働者も参画し組織的に行うことが求められています。
3.実施時期
労働安全衛生規則 第24条の11(前述)に記載のとおりです。
●建設物や設備・機械・材料などを新規に設置、または変更したりするとき。
●作業方法、作業手順、または業務に関して危険性、または有害性に変化が生じた場合。
4.リスクアセスメントの対象となる箇所・区域
リスクアセスメントの対象は、災害または疾病が「合理的に予見可能な場合」を含みます。
●今までに、労働災害があった作業および機械設備の箇所
●ヒヤリハット事例があった場所(十分な聞取りが必要)
●日ごろから、やや不安に思っている作業、機械の箇所 など。
5.情報の入手
リスクアセスメントの資料は、定常作業に関するもの以外にメンテナンスなど、非定常作業に関わるものも必要です。
●対象となる機械設備の仕様書、化学物質などのMSDS(※)など。
●作業標準・手順書
●作業周辺の環境(機械のレイアウト、人が作業する領域の範囲)
●作業環境の測定結果(照明、塵埃、爆発性雰囲気の確認など)
●複数人の共同作業の場合の連携に関する情報 など。
なお、リスクアセスメントを行う当事者が独自に入手できない情報は、対象となる機械・設備メーカーなどから入手する必要があります。
※MSDS:化学物質の安全性データシート
6.危険性または有害性の特定
作業標準などに基づいて、各作業ごとに危険性、または有害性を特定します。
危険性の例(注)
●機械的な危険性(はさまれ、巻込まれなど)
●爆発性、発火性の物による危険性
●作業場所、作業方法などに関わる危険性
●作業のための行動から生じる危険性
●その他の危険性
有害性の例(注)
●原材料、ガス、粉じんなどによる有害性
●高温、低温、騒音、振動などによる有害性
●放射線、超音波、異常気圧などによる有害性
●その他の有害性
注)・危険性は、主に物理的な危害・障害に対する可能性
・有害性は、主に健康被害に対する可能性
を対象にしています。
危険性・有害性に関しては、
・「機械の包括的な安全基準に関する指針」の別表第1
・ISO12100(JIS B 9700)の付属書B などにも詳細が記載されています。
7.リスクの見積り
リスク低減措置の優先順位を決定するため、発生する負傷、または疾病の「ひどさ」と「発生の可能性」の両方を考慮してリスクを見積ります。また、化学物質による疾病に関しては、その「有害性の度合い」や「ばく露の量」を考慮して見積ることもできます。リスク見積りの手法に関しては、以下の方法が紹介されています。
●マトリクス(表)を用いた手法 (リスクマトリクス法)
●数値化による方法 (加算法、積算法)
「ひどさ」と「発生の可能性」、または「有害性の度合い」と「ばく露の量」という2つのパラメータを、足し算あるいは掛け算して、危険性または有害性に関するリスクを数値計算する方法です。
●枝分かれ図を用いた方法 (リスクグラフ法)
8.リスク低減措置の検討および実施
リスク低減措置は、第一に国の法令で定められた事項を必ず実施し、次に以下の優先順位で実施します。
●本質安全(設計)方策
危険な作業の変更、および自動化。有害性がない、またはより低い材料に変更するなど。本質的なリスクの低減を行う。
●安全防護方策および付加保護方策
・ガード、インタロック装置などで、危険源へのアクセスの条件に対し、安全のために制限を設ける。
・非常停止装置を設け、定常作業時だけでなくメンテナンス時も安全を確保する。
●使用上の情報
・マニュアルの整備、教育訓練
・個人用保護具などの使用
・ブザー、表示灯などで警告および状態表示を行う。
なお、重大なリスクに対して、十分なリスク低減措置に時間を要する場合は、少なくとも、暫定的な措置を早く実行することも重要です。